一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(ここで私が未提出だったと言って庇うのは容易いけれど、それではこの人のためにならないよね)

 学生ではないのだ。

 社会人としてこれから働いて行くのならば、トラブルから逃げることを覚えてしまっては今後のためにならないと、私は心を鬼にして告げた。

「金曜日に提出しています。もう一度探してもらえませんでしょうか」

「いいえ、絶対にもらってません!」

「私は覚えていますよ。あの日の光元さんの服装も覚えています」

「な……! じゃあ私が嘘を吐いているって言うんですか! ひどい! 言いがかり! 服なんてどこかで見ただけかもしれないのに、そんなこと証拠にもなりません!」

 憤りからか、目を潤ませている光元さんに、周囲の男性社員がおろおろと動揺し始める。

「ちょ、あの……もう少し優しく言ってあげてくださいよ。彼女まだ新人ですから。それに彼女は受け取っていないと言ってますから信じてあげませんか?」

 そんないらない仲裁に入ってきたのは、若いけれどちょっと頭が寒くなってきている総務課の男だった。

 ここでは完全に私は悪者になっている。

 新人で可愛らしい彼女を疑う人は総務課にはいないのだろう。

 どちらかに肩入れするのかと言えば、同じ部であり、さらに若くて可愛い方に肩入れしたくなる気持ちはわからないでもない。

 それでも私は毅然と告げる。
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