一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 そうやって甘やかせることが彼女のためにならないのは、今まで多くの新人を見てきて痛感していたからだ。

 トラブルから逃げるよりも、ちゃんと対処することの方がこの先、ずっと大切なことだと知って欲しい。

「別に責めているんじゃないんです。もし紛失したのであれば再度作り直します。ただ受け取ったものを知らないと言うのは、会社として問題だと思ったのではっきりと言わせていただきました。責任を問うているわけではありません。渡したのは確かなので、探して欲しいとお願いしているだけです」

「そ、それじゃあ、まるで全部私が悪いって言ってるみたいです!」

(だめだ、この人)


 完全に逃げる気でいる。


 これでは出した、受け取ってないのいたちごっこになってしまう。

 もう一度課長の印をもらうのは面倒だけれど、パソコンの中にデータは残っているので、再度提出すればいいか、とそう思い始めた時だ。


「光元ちゃん、金曜日に受け取ってじゃん。俺、柴崎さんが来て書類手渡していたの見てたよ」


 不意にそんな声を上げた男が立ち上がった。

 周囲の驚きの視線を一身に集めているのは、総務課の早川という社員だった。
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