一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 彼は二年前まで人事課にいて、その後、この総務課に異動したので、私ももちろんよく知っている人だ。

 割合軽い冗談などを言う社交的な先輩社員だが、いい加減なことや怠惰なことをとても厭う、しっかりとした人だった。

 自分も同じ考えを持っているので、そういう点では彼のことを尊敬していたし、だからこそ、彼がはっきりと言ってくれたことが嬉しかった。

 おい、早川、と近くにいた総務の社員が小声で注意したが、彼は周囲の空気など気にせずにもう一度言った。

「俺、見てたよ。だからもう一度書類を探した方がいい。柴崎さんの言う通り紛失ならそれなりの対処をすればいいけれど、決めつけで人のせいにして放置するのは良くないでしょ」

 彼の言い方は少々容赦がなかったのかもしれない。

 光元さんは可愛らしい唇を噛みしめるや、大きな瞳に涙を浮かべた。

「ひ、ひどい! 私を悪者にして! こんなのいじめです!」

 言うなり、彼女は部屋を飛び出して行ってしまった。

 シンと静まりかえった総務部の部屋で、私は唖然とする。

 しばらく時間が止まってしまったまま、彼女が誰もが出て行った扉を見つめていた。
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