一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 成瀬の言葉に特別な意味を感じているのはきっと思い上がりだろう。

 嫌われたくないとか、傷つけたくないとか。

 そんなこと、乙女ゲームの中ではいくらでも言ってもらっているのに、感情を揺さぶられたのだろうか。

 きっと、と私は理由を考える。

(今はちょっと心が弱っているからだ。だから成瀬を泊めるのもついOKしてしまったし、成瀬の言葉に心揺らされただけだ)

 そんな風にむりやり言い聞かせたって、成瀬の腕の中の心地よさだけは否定できなかった。


 三次元なんて、男なんて。

 ずっとそう思っていたのに、私はこの腕を失いたくないと、頭の片隅で気がついていた。


 結局おつまみを出すこともなく、二人で一つのベッドに潜り込んだ。

 灯りを消した部屋の中。

 背を向けて寝転がる私に、そっと腕を回してきた成瀬が静かにささやく。


「抱きしめるのは……イヤですか?」


 しばらく返事に迷って……それから私は答える。


「イヤじゃない。それは許可する」


 こんな可愛げのない口調。

 私の悪いクセだとわかっていても、つい強がってしまう。

 成瀬がクスッと小さく笑ったのが背中で聞こえ、思わず肩をすくめたけれど、そんな私を包むように抱きしめた。

(こうして抱きしめられて眠るのは……なんて心地いいんだろう……)

 ドキドキするよりも安心感に包まれて、あれほど心が弱っていのに私は蕩けるように眠りにつくことができた。
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