一寸の喪女にも五分の愛嬌を
成瀬に感謝を――。
しなくっちゃ、と最後まで思う間もなく眠りに落ちた。
ふと目が覚める。
ぼんやりと水の中を漂うような虚ろな意識の中、自分の背中に寄り添ってくれている温かな体温にホッとする。
多分まだ真夜中。
二時か三時か、夜明けまでまだまだ時間がある。だから背中から聞こえてくるのは規則的な寝息だ。
私に腕を回して眠っている成瀬を起こさないようそっと体の向きを変えて成瀬と向き合う体勢に変え、ゆっくりと頬を成瀬の胸に寄せる。
(きっと何かスポーツをしていたんだろうな……)
筋肉質な腕や大きな手を見ていた時から思っていたけれど、こうして成瀬の胸に頬を預ければ、この胸板が鍛えられたものだとはっきりとわかる。
どうしてこんな状態でいることを私は許しているんだろう。
考えても答えは出ない。
ただこの腕に抱きしめられているだけで、会社での諸々のイヤなことが消えていくから不思議だ。
二年前、結婚まで考えていた彼氏に裏切られた時に、もし成瀬のように寄り添ってくれる誰かがいたのなら、あれほど苦しい気持ちに陥らなくて済んだのだろうか。