一寸の喪女にも五分の愛嬌を


 セットした覚えのなかった目覚ましの音に起こされる。


 重たい瞼を持ち上げた私の隣に、成瀬の姿はもうなかった。


「……成瀬?」


 控えめに声をかけたけれど、部屋の中に人の気配は一切なかった。


 今日は金曜日、時刻は朝の六時半。

 深く重たい息を一つ零したのは、無意識のことだった。


 会社へ行く準備をするためにのろのろと体を起こし、ローテーブルの上に書き置きがあることに気がついた。

 いつもならばスマホへと伸ばす手を、その書き置きに伸ばす。

 若い男にしては案外綺麗な字を書く成瀬の字が並んでいた。


『玄関脇の棚に鍵を見つけたので、掛けてから扉の新聞受けに入れておきます。勝手にすみません。それと、今日は一緒にご飯に行きましょう。帰り、待っててくださいね。 成瀬春人』


 書き置きのメモを見つめながら、ぼやいてしまう。

「なんでご飯の約束しようとするのよ。私は一人がいいって言ってるのに、あいつの耳は飾りなの?」

 ベッドにメモをポイッと放り投げて、洗面台へと向かう。

 手早く顔を洗い歯を磨きながら、なぜかベッドの傍らに戻り、先ほど放り投げた成瀬の残したメモを手に取る。
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