一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 すぐに気がつく。

「ああ、ゲームをやってないからだ」

 いつもは朝起きればすぐにアプリを開きゲームを進める。

 武将と王子とセレブのそれぞれの攻略キャラと会話をしたり、余裕があれば一日一回の無料ガチャを引いたりしている。

 今もちょっとしたイベント期間なのに、開く気になれなかった。

 ベッドに座りアプリを起動する。けれど私の視線は成瀬の置いて行ったメモを見ている。

 たった一枚のメモ用紙が、私を引き寄せて離してくれない。

 メモを手に取り、悔しまぎれにクシャッと手の中で握りしめ、それからゴミ箱にポイと投げ入れる。

 クローゼットを開いてずっとしまったままの雑誌を取り出し、ペラペラとめくり、目当てのページを見つけると、そこに書かれている内容をスマホで写真を撮っておく。

 簡単に部屋を片付け、それからまだ出勤までには少し早かったけれど、私は部屋を後にした。


 昨日と何も変わらない社内。

 相変わらずさげすんだような視線を投げつけてくる女子社員。


 うんざりとしているのは昨日と同じなのに、なぜか私の心の中までは彼女たちの冷たい視線もうるさい噂も落ちてはこない。

 何か薄いガラスや膜のようなもので遮断されたように、黒い感情は私に響かない。

 どうでもいいと割り切ったから?

 社内に私の味方をしてくれる女子社員がいることを知ったから?

 それとも……成瀬と一緒に過ごした後だから?


 どれも正解でどれも少し違うことに自分でも気がついている。

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