縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
心なしか玄関のドアはいつもより色あせて見える。

色鮮やかに感じた日々が終わりを告げ、また色褪せた日々が始まるのか…

ドアを開けて、

「ただいま」

いつも通りにしているはずが、思った以上に弱々しい声になってしまった。


「おかえり」


声がいつもより多い。

今、何人いた?


恐る恐るリビングに入ると、そこにはよっちゃんと理仁が家族に混ざっていた。


もう今の私にはこの光景が眩しい。

平凡な私には眩しすぎる…


「なんだよ、腐ったみかんみたいな顔して」

顔をしかめる琥珀。

ここだけは本当にブレないな。
いつも通り憎たらしい表情。


「腐ったみかん…あはっ」

力なく笑った私をみんなが心配そうに見ている。


「乃々夏、そこは怒るとこ」

ソファに座っていた在花が立ち上がってツッコむ。


ああ、そうか。
怒るところか…

笑いしか出て来ないわ。

もう疲れた。


「まぁ、のんちゃん。座って。紅茶でいい?」

母さんが、自分の席を空けてくれて私は促されるままそこに座った。


部屋に上がればまた涙が出てしまいそうだった。
自分が傷ついていることを自分自身が再認識してしまうことが怖かった。
だって、こんな気持ちになるのは初めてだから。

体調が悪いわけでもないのに胸が痛くて、息が苦しくて。

胸が苦しいんだよ。

涙はいつでも出られるように瞼の下でスタンバイしてる。


1人になるのが怖いなんて、情けないな…私。


出された紅茶を飲みながら、みんなの話に耳を傾ける。
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