縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
しばらく座ってはいたものの居心地の悪さもあって、


「ちょっとトイレ行ってくる」

そう言って席を立つ私の言葉に、


「はいよ」

と、顔も見ずに返事する凛子と、まったく無反応な衣織。


無視かよ…って、衣織相手に私、何期待してんだか。


いつものことだし何も感じない…感じなかった、昨日までは。


でも、今は少し空しく淋しく感じてる。


クラスで2番目の位置だし、顔が広い凛子とファッションリーダーな衣織。

その二人と一緒にいる私。
私は普通のいたって平凡でなんにもない人間。

自分の力では輝けない。
だから、ここに所属してるの。


ただ嫌われてない、浮いてない、なじんでる・・・

でも、そこ大事だから。


学校生活を無事に平和に送るために必要なこと。

それは平凡、普通。

そう自分に言い聞かせる。

トイレに入ると、鏡に映った自分の顔に一瞬ドキッとした。

私、すごいつまんなそうな顔してたんだ。

姿勢も悪くなってるし。


今、すっごいブサイク・・・

顔?それ以上に心がブサイクなんだ。


愛紗、昨日あんなに怖い思いしたのに。

私、それを知ってるのに・・・
何もできなかった。

できないというより、何もしなかった。


でも、行動を起こせば浮いちゃう。
場合によってはあのグループにいられなくなる。


そんな怖いこと、無理・・・

今まで私が守ってきたものを投げ打ってまで、動けない。


私はまた猫背になって歩き出した。


トイレから出ると、陽色と出くわした。

気づいたはずなのに、陽色は何も言わずに、そのまますれ違おうとした。


私は、立ち止まって陽色の顔をじっと見た。

陽色は目も合わさない。


だけど、少しピリピリしたような陽色の雰囲気がいつもと違う。

何よ…何なの?
何怒ってるの?

居心地の悪さに陽色の方へ一歩踏み出した。


「なんで、なんにも言わないの?私に何か言いたいでしょ?」


小声で陽色に話しかける。

陽色は立ち止まって私を初めて視界に入れた。


「声かけちゃダメなんだろ?学校では」

陽色の冷めた声に私はなぜか悲しくなって、恥ずかしくなった。


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