縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
何も言い返せなかった。

自分がどれほど自分勝手なことを言っていたのか、初めて客観視した瞬間だった。


私、何様だよ…


「なにが大事なんだよ?自分か?だったら今なんでそんな顔してんの?」


陽色の言葉が心の深いところへと突き刺さった。


私が望むようにしてくれた。

陽色は声をかけてこなかったし、私が助けなくても加瀬晴輝がちゃんと愛紗を助けてくれた。

だから、私は何もしなくてよかった、何もばれなくてよかった。
何も失わなかったし、自分の身だけちゃんと守った・・・


そもそも、私に失うものなんてあるの?

もともと、何も持ってない。

だって、私は空っぽだ…

学校でうまく生きていくためには仕方ないこと、それが当然、何の疑問も抱かなかった。


でも、自分のことしか考えてない自分を、今、誰よりも自分自身が嫌ってる。

恥ずかしくて、みじめで、うざくて…大嫌い。


凛子や衣織が私に興味がないのは二人のせいじゃないんだって。
私が、空っぽだから。

私だって、おんなじ。

二人のこと知ろうともしなかった。
どうせそんなこと無駄だって、親友じゃないって、どこかで思っていたんだ。


陽色には全部見透かされてたのかな。


走って逃げたいような気持になったけど、思いとどまる。

逃げてはいけない、目を背けてはいけない。


両手を握りしめて、目をぎゅっと閉じて、


「恥ずかしいわ、私・・・ちっさ!」


自分の声が廊下に響いて、顔が赤くなる。

こういうとこも、ちっさ…


誰とも本気で関わろうとしていないのに、勝手に少し孤独を感じてしまっていた自分の独りよがりなところが恥ずかしくて。

自分をぶん殴ってやりたい気持ちになってきた。


「いい顔になってきたじゃん?」

陽色のくせに、がり勉メガネのくせに・・・

何イケメンぶったこと言ってんだか。

陽色はそのまま男子トイレに入っていった。


陽色の背中を見送りながら、手の平をギュッと握った。


深呼吸して、教室へと歩く。


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