縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
「店員さんは女の子だけだし、誰か大人って言っても、こんなくだらないことなかなか頼めないし。愛紗ちゃんは愛犬けいちゃんが汚れるって泣くし」


加瀬君の話にまた笑いが起こる。


「汚れるって!」

涙まで流して笑ってくれてる凛子。


「誰か来てくれそうな大人を呼ぼうってなったんだけど…俺が知りうる中で一番優しい大人が藤本先生だったんだよ。ほかの人いろいろ頼んだけど、誰も来てくれなくて。藤本先生に電話したらいいよって、ね?」


私たちは一斉に頷く。

加瀬君、すごいよ。もうカリスマだよ。

私、この先加瀬君の話だけは信じないって思った。


「先生、あの辺の土地勘があまりないらしくて。場所わかんないからじゃんけんで負けた委員長に迎えに行ってもらったんだよ。で、この写真はその時のだよ」


加瀬君の話を聞いて、みんな納得とがっかり感が漂った。


「残念だけど、そういうこと。堅物委員長が秘密の恋って確かに面白いネタだけど。真相はこんなもんだよ」


加瀬君はため息混じりにそう言うと、


「堅物で悪かったわね」


無表情で突っ込む委員長に再びみんな大爆笑だった。


加瀬君の言葉、説得力ありすぎて忘れそうだけど、これ全部嘘だから。

でも嘘じゃないの。

本当のことにしたの、実はあれから。


昨日、あの後本当に今の話を演じたのだ。

愛紗の愛犬けいちゃんを18禁コーナーに入らせるのにドッグフード撒いたり、わざといろんな人に聞こえるように犬がいないと大騒ぎしたり。


「本当なのか?その話は」

委員長に先生が尋ねると、

「はい」

無表情で答えた。


「私のせいでこんな大事になるなんて、ほんとにごめんね?」

何も悪くはない愛紗のウルウルとした瞳での謝罪にクラスの男どもはデレデレ。


「俺に言ってくれれば、なんの迷いもなく入ったのに」

「愛紗ちゃんの犬かあ、プードル?チワワ?」

私はプッとふき出してしまった。


妄想は妄想のままにしておいてあげたいけど。


「ブルドッグのけいちゃん、かわいいでしょ?」

けいちゃんの写真を見せると、みんな一瞬静まり返った。


この男子たちの反応までも計算しつくしていたとすれば加瀬君、マジで恐るべし。


加瀬君と目が合って、にっこり微笑まれたけれど私は背筋が凍ってしまった。

いや、でも加瀬君がいなかったら今回のことこんな風にまとまらなかった。


少し深呼吸して、笑い返した。

で、ずっと気になってたんだけど加瀬君と陽色って、どういう関係?


振り返ると陽色は、少し首を傾げた。
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