縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
口に何かが触れた。

その瞬間、反射的に私は体をのけ反らせて加瀬君から離れた。


「ちょ、ちょっと。なんで…こんな」

状況が呑み込めない。

頭の中がパニックで、思考回路がうまくつながらない。

驚きとショックが一緒に来て、泣いていいのか怒ればいいのか、わけがわからなくなってしまった。

目を見開いたまま加瀬君を見て固まっている私に向かって、


「乃々夏ちゃんが、俺の気持ち見ようとしないから。好きって気持ちを否定するから」

子どもみたいな拗ねた表情で、私を責める加瀬君を見て心が痛くなった。


でも、本気で言ってるなんて思わないじゃない。
だって、私には何もないのに。
好きになってもらえるようなもの、何もないのに。


「ご、ごめ・・・」

雰囲気に流されて、思わず謝りかけた。

ちょっと待って。私が謝るところなの?

思い直し、

「だ、だからって、こんなことしないでよ!」

今度は怒りをぶつけた。


初めてなのに。

こんな思い出すのもつらいのがファーストキスなんて、辛すぎる。

それより陽色に見られたんじゃ・・・


グラウンドのほうを見ると、真ん中でこっちを見たまま動きが止まっている陽色がいた。


見られたんだ。

終わった。

想いも告げる前に終わってしまった。


何もかもにショックを受けてその場から走り去った。


走っても走っても頭から唇の感触が消えない。
口をごしごし手の甲でこすっても、消えない。

どうしてこんなことになってしまったの。


走り疲れて歩きながら、加瀬君の言葉を思い出していた。

いつからだろう。

どこから始まっていたのだろう。

加瀬君は、どんな気持ちだったの?



「乃々夏ちゃん?」


振り返ると、そこにいたのは莉葉ちゃんだった。


「莉葉ちゃん」

心配そうな顔で近づいてきた莉葉ちゃんは、私にハンカチを差し出してくれた。
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