縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
「陽色、今日も練習?」
「おう。部活に入った時のためにサッカーはずっとやってるんだ」
陽色の声と女の声・・・
植木に隠れて二人を見る。
完全なる不審者じゃないの。
女は誰?
植木の隙間から覗き込んでみると・・・
「え?めっちゃかわいいんですけど」
思わず声が漏れる。
とんでもない美少女だった。
長い髪の毛に、小さな顔。
猫のような愛らしい瞳が印象的な、雑誌か何かから飛び出してきたような、そんな女の子だった。
もしかして…彼女?
一気に絶望感が私の心を覆って、心拍数が上がる。
さっきとは違うドキドキで胸が痛いよ。
息がうまくできない。
そっか・・・陽色に彼女がいないなんて確認したことがなかった。
しかも、ちょんまげに眼鏡外してるし。
陽色の秘密も知ってるんだ。
そういう仲なんだ・・・
どうしよう、もう立ち上がれない。
一人でドキドキして、嬉しくなって、明るい未来しか見えてなかった。
膝を抱えてうずくまって、小さく小さくなってみた。
見えなくなりたい、陽色からも誰からも。
苦しい。怖い。不安・・・
「おい、大丈夫?」
肩をたたかれて我に返った。
「は、はい・・・」
顔を上げると、見慣れた顔。
「あれ?加瀬君・・・?」
やだ、加瀬君の顔見てなんだか気が緩んで視界がぼやける。
「乃々夏ちゃん!どうした?具合悪い?」
座り込んで私の顔を覗き込んだ。
心配そうな顔。
だめ、そんな顔されたら甘えてしまう。
「大丈夫・・・」
なんかじゃないし。
こらえきれずに、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。
「ごめっ…ちょっと…」
顔を覆った。
見せちゃダメ、こんな顔。
加瀬君には幸せそうな私を見せていなくちゃいけないような気がした。
しばらく顔を覆って、鼻をすする音ばかり加瀬君に聞かせてしまって申し訳ない気持ちになってきた頃。
「なんかあった?陽色に会いに来たんじゃないの?」
加瀬君が静かな声で話しかける。
そう、陽色に会いに来たの。なのに…
女の子と歩いていただけ。
秘密を話せる、仲のいい女の子ぐらいいるのかもしれない。
でも、もうこの先を知るのは怖い。
本当のことが、知りたいはずなのに。
知って傷付くことがこわい。
傷つきたくない。
「ううん、そうじゃないの。落とし物…そう!落とし物」
5円玉なら何か知っているのかもしれない。
突然、一心不乱に探し物をし始めた私を見る加瀬君は、かなり戸惑っている。
「大丈夫?手伝おうか?」
加瀬君の申し出を、
「探しもの、してるだけだから」
そう言って泥だらけの手を振って返事をした。
勢いよく植木に手を突っ込んだ時、
「痛っ」
枝で手を切ってしまった。
手の甲の切り傷から血が出ている。
私の心みたい。
「危ないよ、大丈夫か?」
加瀬君が私の手を掴んだ。
私はやけくそになって、その手を振り払った。
「いいのいいの」
なんかみじめで、こんなボサボサ、あの女の子を見慣れてる陽色にはみすぼらしく見えるだろう。
「よくないよ。こっちおいで」
腕を掴んで、立ち上がって加瀬君は歩き始めた。
引っ張られながら歩いていく。
「ちょっと、どこ行くの・・・」
加瀬君の足が止まって、思わず背中に顔をぶつけそうになった。
「何?」
加瀬君の背中で何も見えない。
すると、加瀬君がポツリと言った。
「陽色・・・」
横から覗き込むと、陽色が立っていた。
「おまえ、なにしてるの?」
加瀬君に尋ねた陽色の声はいつも以上に低くて少し怖かった。
加瀬君を見る目が、鋭くて陽色じゃないみたいだった。
「おう。部活に入った時のためにサッカーはずっとやってるんだ」
陽色の声と女の声・・・
植木に隠れて二人を見る。
完全なる不審者じゃないの。
女は誰?
植木の隙間から覗き込んでみると・・・
「え?めっちゃかわいいんですけど」
思わず声が漏れる。
とんでもない美少女だった。
長い髪の毛に、小さな顔。
猫のような愛らしい瞳が印象的な、雑誌か何かから飛び出してきたような、そんな女の子だった。
もしかして…彼女?
一気に絶望感が私の心を覆って、心拍数が上がる。
さっきとは違うドキドキで胸が痛いよ。
息がうまくできない。
そっか・・・陽色に彼女がいないなんて確認したことがなかった。
しかも、ちょんまげに眼鏡外してるし。
陽色の秘密も知ってるんだ。
そういう仲なんだ・・・
どうしよう、もう立ち上がれない。
一人でドキドキして、嬉しくなって、明るい未来しか見えてなかった。
膝を抱えてうずくまって、小さく小さくなってみた。
見えなくなりたい、陽色からも誰からも。
苦しい。怖い。不安・・・
「おい、大丈夫?」
肩をたたかれて我に返った。
「は、はい・・・」
顔を上げると、見慣れた顔。
「あれ?加瀬君・・・?」
やだ、加瀬君の顔見てなんだか気が緩んで視界がぼやける。
「乃々夏ちゃん!どうした?具合悪い?」
座り込んで私の顔を覗き込んだ。
心配そうな顔。
だめ、そんな顔されたら甘えてしまう。
「大丈夫・・・」
なんかじゃないし。
こらえきれずに、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。
「ごめっ…ちょっと…」
顔を覆った。
見せちゃダメ、こんな顔。
加瀬君には幸せそうな私を見せていなくちゃいけないような気がした。
しばらく顔を覆って、鼻をすする音ばかり加瀬君に聞かせてしまって申し訳ない気持ちになってきた頃。
「なんかあった?陽色に会いに来たんじゃないの?」
加瀬君が静かな声で話しかける。
そう、陽色に会いに来たの。なのに…
女の子と歩いていただけ。
秘密を話せる、仲のいい女の子ぐらいいるのかもしれない。
でも、もうこの先を知るのは怖い。
本当のことが、知りたいはずなのに。
知って傷付くことがこわい。
傷つきたくない。
「ううん、そうじゃないの。落とし物…そう!落とし物」
5円玉なら何か知っているのかもしれない。
突然、一心不乱に探し物をし始めた私を見る加瀬君は、かなり戸惑っている。
「大丈夫?手伝おうか?」
加瀬君の申し出を、
「探しもの、してるだけだから」
そう言って泥だらけの手を振って返事をした。
勢いよく植木に手を突っ込んだ時、
「痛っ」
枝で手を切ってしまった。
手の甲の切り傷から血が出ている。
私の心みたい。
「危ないよ、大丈夫か?」
加瀬君が私の手を掴んだ。
私はやけくそになって、その手を振り払った。
「いいのいいの」
なんかみじめで、こんなボサボサ、あの女の子を見慣れてる陽色にはみすぼらしく見えるだろう。
「よくないよ。こっちおいで」
腕を掴んで、立ち上がって加瀬君は歩き始めた。
引っ張られながら歩いていく。
「ちょっと、どこ行くの・・・」
加瀬君の足が止まって、思わず背中に顔をぶつけそうになった。
「何?」
加瀬君の背中で何も見えない。
すると、加瀬君がポツリと言った。
「陽色・・・」
横から覗き込むと、陽色が立っていた。
「おまえ、なにしてるの?」
加瀬君に尋ねた陽色の声はいつも以上に低くて少し怖かった。
加瀬君を見る目が、鋭くて陽色じゃないみたいだった。