愛しの魔王サマ
「お前は、臆病になりすぎる。想うことを全て溜めこむ悪い癖だ。嫌なことは嫌だと言える強さを持った方がいい」
「・・・っ、マオさま・・・」
「それから、もっと笑っていろ。生きていくうえで、愛嬌というものは、きっと大きな武器となる。お前の笑顔はとても可愛らしいのだからな」
本当なら、どんどんと変わっていくエマを側で見ていたかった。
エマの、いろいろな表情を見ていたかったと、思う。
「幸せでいろ。俺様からの、最後の命令だ」
「・・・っ」
エマに触れていた手を放す。
これで、お別れだ。
人間というものがどういうものか、少しだけでも知れてよかった。
「お世話に、なりました」
深々と下げられた頭。
声は震え、ぎこちない。
アドルフに連れられ去っていく背中を、俺は最後まで見送った。