愛しの魔王サマ
そもそも、この女。
自分の命にすら執着もなく、簡単に自分にナイフを向けた。
チラリと見た左手首には痛々しく包帯が巻かれている。
「魔王さま。おはようございます」
「・・・ああ」
「アドルフさまから朝の準備を任されました」
「そうか・・・」
本当に、コイツに俺の身の回りの世話を任せるつもりなのだな。
くそ・・・。
俺は、嫌だと言っているのに。
「チチ!トト!着替えだ!」
「魔王さま、私が・・・」
「うるさい!俺は、信用ならんやつに触れられるのは嫌いなんだ」
伸ばされた手を払い、クローゼットに向かう。
エマは何も感じないような無表情のまま追いかけてくることもせず大人しくその場に立っていた。
本当に、いいなりなんだな。
気に入らん。
「「まおーしゃまお着替えおてつだいしまっす」」
「ああ、頼む」
「「おまかせくださいっ」」
変化なんていらん。
今まで通り、チチとトトがいて、アドルフがいて、ルカがいて。
俺に近づく者たちはそれだけで十分じゃないか。
召使いなら他にもいる。
そっちに回せばいいものを。
なぜわざわざ俺付にする。
着替えを済ませ、出てくると一歩も動かず待っていた。