愛しの魔王サマ
だが、こうして痛みに気を反らすとその衝動は引っ込むことが分かった。
これもどれほど効果が継続するかはわからないが、そうやすやすと身体を持っていかれてたまるか。
その発作を実際に体感すれば、自分の中に自分ではない別のものが存在しているという実感がひしひしと感じられるようになった。
自分が、自分ではなくなる感覚。
いや、そもそも、その別の存在も俺であるのだろうか。
「くそ・・・」
ここは廊下だ。
いつだれが通るやもしれん。
早く立ち上がり、流れ出た血を綺麗にして去らねば・・・。
こんな状況を、知られたくない。
ぐ、と力を込め起き上がるとポケットから取り出したハンカチで無造作に床をふき取る。
しかし、止血をしていない腕の傷からは新しい血がポタポタと溢れだしてくる。
まずは止血が先か。
生憎ハンカチはその一枚しかなく仕方なくそれを腕に巻きつけ縛り上げる。
じわっとハンカチの白が赤く滲んだ。
服の袖で床の血を綺麗に拭いさると、立ち上がり自室へと向かった。
ズクン、ズクン、と刺すような痛みに顔を顰めた。