愛しの魔王サマ
近くの喫茶店に入り、紅茶を頼んだエマ。
歩き回った疲労に、ふっと息を吐きながら紅茶が来るのを待った。
「他に何か欲しいものとかないの?」
「もう十分よ」
「ほんと、姉ちゃんって物欲ねぇな」
「必要なだけあれば十分なんだもの」
それで困ることなんてないし。
必要のないものを持っていても、どうしていいかわからない。
「ねぇ、ねぇ、聞いた?また魔界に攻め込んだって話」
ふと、少し離れた席に座っていた女の人たちの声が聞こえてきた。
“魔界”という言葉に反応し、エマは視線を向けると神妙な顔で話をしているのが見えた。
「知り合いの旦那が行ったって話よ」
「ええっ!恐ろしいわね・・・。どうだったの?」
「怪我人はいるようだけど、命に関わるほどのケガを負った人はいないって」
「そう・・・。よかったわぁ」
怖ろしい話が聞こえ、エマの心は穏やかではなくなった。
バクバクと、心臓が鳴り不安で手が震えた。