愛しの魔王サマ
エマは家に戻ると鞄に荷物を詰めはじめる。
そこにトマが追って帰ってきた。
「姉ちゃん!いったい、どうしたんだよ!」
「私、魔王さまのところに戻らなくちゃ」
「はぁ!?」
「魔王さま、怪我をしたって!・・・酷いケガだったらどうしよう・・・」
青ざめた顔でエマが言う。
不安で、不安で仕方がない。
「そんな事、もう姉ちゃんには関係ないだろ!最後、なんて言われたのか忘れたのかよ」
「でも、それでも、私は・・・」
「姉ちゃんだって、歴史を知らないわけじゃないだろ。魔王が人間にしてきたことだって、知ってるはずだろ」
「魔王さまは・・・!少なくとも、マオさまは違う!マオさまは、とても優しくて思いやりのある心の温かいお方だわ!」
だって、知っている。
苦しんでいたことも。
それでも、魔王として懸命に立っていることも。
いつだって、誰かのために生きていることも。
だって、救われたのだから。
命も、心も、投げ出してもいいと思っていた、人形のようだった心を、マオさまだけは見つけてくれた。
拾ってくれた。
認めてくれたの。