愛しの魔王サマ
「マオさま、あの、客人が・・・」
新しく茶の用意を整えていたアドルフが戻ってくると、躊躇いがちにそう言った。
客人だと?
俺を尋ねてくるものなど、誰がいる?
これまでも、公務として魔界を回ることはあっても、魔物たちの方からここを訪ねてくることなどなかった。
それが今、いったい何の用だというのだ?
「・・・誰にも、会いたくない。帰ってもらえ」
「しかし・・・」
「なんだ」
会ったところで、きっともう意味はない。
俺を魔王として、なにかを頼ってきたとしていたとしても。
俺にはもう、それを聞き届けてやる資格などない。
「あの、エマ・・・なのです」
「・・・エマ、だと・・・?」
アドルフから告げられたその客人の正体に、息をのんだ。
もう、会うことなどないと思っていた。
遠い地で幸せに暮らしていればいいと密かに願っていた。
それなのになぜ。