愛しの魔王サマ
「そういえば、お前エマが人間だと知っていて連れてきたのか」
「ええ、もちろん」
「・・・お前の考えがわからん。人間など連れてきて、なんになるのだ」
チラリと横目にエマを見ながらそう告げる。
エマは俺の視線にも瞳を揺らすことなく、淡々とメイドの仕事をこなしていた。
「マオさまに人間というものを知っていただきたくて」
「はぁ?」
「人間、見たことないでしょう」
「それはそうだが」
それになんの意味があるのだ。
人間など、棲む土地も違う。
かつては、人間の地を脅かそうとしていた魔族がいたと聞くが、今は人間の地と魔物の地は全く無干渉だ。
「マオさまには、いろいろなことを知ってほしいのですよ」
「いろいろな事ねぇ・・・」
興味はないのだが。
最後の一切れのパンを口に頬り込む。
急くように水で流し込むと席を立った。
「30分後に立つ。お前も準備を整えておけ」
「かしこまりました、マオさま」
「それと。魔王さまと呼べと・・・」
「はい、マオさま」
「はいというのは了解したという事じゃないのか!」
「マオさま」
にっこりと告げられ、ムッとする。
キッと睨みつけた後勢いよく顔を反らし部屋を出た。