愛しの魔王サマ
「それと!魔王サマと呼べ!」
「・・・はぁ。いい加減になさってください、マオさま」
「だから、今言ったばかりだろうが!」
アドルフは顔についた泡をハンカチでぬぐいながら呆れたように息を吐いた。
こいつはいつもこうだ。
「マオさまも魔王サマも、聞きようによっては同じに聞こえるでしょう。自分で脳内変換なさってください」
「“う”があるのとないのとでは意味が全く違うだろうが!俺は、マオという名ではあるが、お前たち魔物を統べる魔王なのだぞ!」
「わかっておりますよ、それくらい」
「わかっていない!讃えられるべき俺が、全く讃えられていないではないか!」
この俺、マオ=ブラッドフィールドは、この魔物が棲む大陸を統べる言わば魔物の頂点に立つ男だ。
そしてこの男、アドルフ=オーエンはこの俺の側近、魔王の右腕とも呼べる男。
それなのに、この男ときたらこの俺をたたえるどころか、いつもこのようにこの俺様をあしらってきやがる。
まったく許せん!