愛しの魔王サマ
「お前も座れ」
「いえ、私は・・・」
俺が促すと躊躇いがちに頭を下げられた。
「いいから、座れと言ってるだろ」
「・・・はい」
怯えたように頷くと少し距離を置いて俺の隣に座った。
ピンと伸びている背筋。
「・・・お前は、なにに怯えているのだ」
「え・・・」
エマの視線がこちらに向く。
無表情ではあるが、瞳だけがその心を映し出しているようだと気付いた。
瞳だけはいつも、なにかに怯えたように揺れている。
あの、風呂での出来事と合わせても、なにかに怯えているのは確かだ。
「俺に、言えないことか?」
「言う必要が?私の過去は、今の私には関係のないことです」
「過去が、関係ない?」
「はい。過去は過去。ここにいる私は、ご主人様の召使いのエマです」
過去は、過去・・・。
それは、過去を持っているものが言えることだ。