愛しの魔王サマ


「お前も座れ」

「いえ、私は・・・」



俺が促すと躊躇いがちに頭を下げられた。



「いいから、座れと言ってるだろ」

「・・・はい」



怯えたように頷くと少し距離を置いて俺の隣に座った。
ピンと伸びている背筋。




「・・・お前は、なにに怯えているのだ」

「え・・・」




エマの視線がこちらに向く。
無表情ではあるが、瞳だけがその心を映し出しているようだと気付いた。



瞳だけはいつも、なにかに怯えたように揺れている。
あの、風呂での出来事と合わせても、なにかに怯えているのは確かだ。



「俺に、言えないことか?」

「言う必要が?私の過去は、今の私には関係のないことです」

「過去が、関係ない?」

「はい。過去は過去。ここにいる私は、ご主人様の召使いのエマです」





過去は、過去・・・。
それは、過去を持っているものが言えることだ。





< 38 / 293 >

この作品をシェア

pagetop