愛しの魔王サマ
身も心もボロボロになって。
全てがどうでもよくなった時、アドルフさまに出会った。
自分は人間ではなく、魔物なのだと名乗った。
馬鹿げていると思った。
魔物が棲む台地が遠い果ての地にあるとは知っていたが、魔物というものを目にしたことがなく半信半疑だったから。
自分とは違う生物、それは目の当たりにするまでよくわからなかった。
彼は、魔界の王さまの召使いにならないかと言った。
寝食に困らない、報酬もたんまりくれるという。
別にどうでもよかった。
今まで仕えてきた人間の主人も。
まるで化け物のような人ばかりだった。
人を人とも思っていないような仕打ちばかり受けてきた。
それがついに、いよいよ本物の化け物の相手になるだけだ。
今までと、なにも変わらない。
「かしこまりました」
私は、ただそう答えた。