愛しの魔王サマ


なにも感じなければ。
なにも心動かさなければ。


どんな相手が主だろうと関係ないのだ。



ただ、ご主人様の機嫌を損なわないように。
生きるために、どんなことでもしよう。



私の心の中には、あの可愛い弟の姿が残っていた。




「エマ=アントナと申します」



新しいご主人様である魔界の王マオ=ブラッドフィールド様は、変わったお方だった。
魔王というものは禍々しく図体がでかく怖ろしいものだと思っていたから、少し拍子抜けした。



アドルフさまよりも身長は低く、黒髪のアシメトリーな髪型で、一房だけ長い髪は金の留め具でまとめられている。
きりっと目つきは悪く眉間にしわが寄っているのがいつものよう。
すらっと細身の体は、着やせするようで筋肉が程よくついた男の人の身体だった。




俺は魔王だ。
それが口癖のように、傲慢な態度をとる一方で、悪役になりきれていない優しさを垣間見ることがある。




不思議な人だ。




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