愛しの魔王サマ


父がなくなってから、今まで誰にもしてもらったことがない。
きっと忘れていた感情。



それを魔王さまが思い出させてくれた。




「――――っ」




きっと無でいればなにも感じず乗り切ることができるのだ。
辛いことも、悲しいことも、すべて忘れられる。




それでも、いくら無になろうとも、いくら心を閉ざそうとも。
私が受けてきた仕打ちは消えない。



いつだって私を追いかけて、捕まえ離さない。





だから、魔王さまのあの言葉も、すべてを信じることができない。





それほどまでに、私は汚れてしまった。





もう、浮かび上がることができないほど、溺れて。






「あ、エマじゃん」




溺れて・・・。





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