愛しの魔王サマ
「目が覚めた時、そこにはアドルフがいて、俺に言った。お久しぶりです。お迎えにあがりました。魔王さま、と」
真っ暗ななにも見えない、なにも聞こえない誰もいないたった一人だった場所から開けた先に見えた世界。
それは、俺にはとても怖くて、不思議で、なぜだか涙が流れた。
「俺は、アドルフが俺を魔王だと言ったから、魔王なのだと。あいつが、俺の名前をマオだと言ったから、マオなのだと。そう信じてここにいる」
「魔王さま・・・」
「人間は・・・、首が座り、歩き、言葉をしゃべり、そうして成長していきながら自分の居場所や自分自身を知っていくのだろう?」
「・・・はい」
「でも俺は、目が覚めた時、普通に歩くこともできたし言葉だって知っていた。でも、自分の事だけが空っぽだったのだ」
忘れているのか。
それとも、なにも知らないのか。
俺は、本当に魔王なのか。
マオというのは自分の名前なのか。
「自問自答した。俺は何者なのか。だが、1年経った頃、ようやく踏ん切りがついたのだ」