愛しの魔王サマ


「嘘でも自分がそう信じ、唱え続けていればそれが真実になるのでは、と。だから、俺は魔王なのだと叫ぶ。誰にしつこいと、バカにされようがな。俺が、魔王なのだと。そう叫んで、自分自身に言い聞かせているのだ」

「怖く、ないのですか」

「自分が何者なのか、それがとてつもなく恐怖に思えることはある。過去が本当はどうであったとしても、これまで3年過ごしてきた確かな道がある。それは俺が踏みつけて残してきた道だ。それだけは信じられる」

「・・・」

「それが、俺にとって真実であり、唯一の支えなのだ」




怖ろしくないわけじゃない。
なにを信じればいいのか。
信じるとはそもそもなんなのか。

でも、与えられた場所で、懸命に自分の居場所と自分自身を確立していかなければ。




「滑稽だろう。本当は、魔王でもなければなんの力もないただの名無しかもしれん男だ。仕えるのが嫌になったか?」

「そんなはずありません」

「だからだ」

「え?」

「最初の質問の答えだ」



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