愛しの魔王サマ


「わからぬまま、傷つけることは、できん」

「魔王さまは、お優しいです」

「そんな事、あるか」

「今までのご主人様は、いつだってご自身の事ばかり考える方ばかりでした。そのために、私たちメイドはまるで奴隷のように難題を押し付けられ、少しでも拒絶すれば着の身着のまま放り出される・・・それが、私の日常でした」



エマが初めて明かした身の上話。
過去は過去だと言っていたエマが。



「だから私は、なにも感じないように、心を閉ざすことを覚えたのです」

「だから、表情がなかったのか」

「過去形・・・?」

「無意識か?ここの所少し表情が和らいでいるぞ」



あまり指摘すれば、身構えてしまいそうだったから黙っていたが、やはり無自覚だったか。
時々、とても優しい顔をする。

まぁ、まだ無表情に変わりはないが。



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