愛しの魔王サマ


あの日以来、仏頂面の無表情だったエマに、少しだけ表情が柔らかくなったように思う。
なにかに怯えたような顔も、しなくなった。




「お待たせいたしました。はい、こちらです」

「ならば、それを持ってあの椅子に座って続きを読め」

「え・・・」

「それとも、お前の自室の方が気が休まるか?まぁ、それはそうだろうな」

「いえ、あの」




戸惑ったような表情に、眉を寄せエマを見ると深くため息を吐いた。
いい加減、慣れろと言うのに。




「今俺は、なにもすることのない自由な時間だ。それはわかっているだろう」

「はい」

「ならば、俺のメイドであるお前も自由な時間だ」

「ですが、メイドというものは・・・」

「他は他だと言ってるだろう」



ギロリと睨みつけると、口を噤む。




< 86 / 293 >

この作品をシェア

pagetop