愛しの魔王サマ


“たち”ではなく、“私の”といった。
その意図は?




「アドルフ?」

「・・・いえ、すみません。取り乱しました」





アドルフは、そう言って頭を下げた。
俺の覚えていないことをアドルフは確実に覚えていて。

俺は、アドルフから伝え聞いている事しか知らない。




過去の魔王もまた、俺自身であるのだろうが。
そのどれ一つとして俺は覚えていない。



俺が俺である証明は。
過去の俺も、今この時の俺も、同じ俺だと言えるのであろうか。





「今までの俺の事も、今この俺の事も、アドルフ、お前しか知らない。俺は、お前の言う事を信じるほかないのだ。それは、わかっているな」

「・・・はい」

「お前が、例え嘘をついていたとして、俺はそれを見破ることはできん。お前が言う事をただ、そうか、と受け入れる事しか」

「マオさま・・・」




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