キミと過ごす時のなかで
(ん?)
それがあったのは、彼女が落とした鞄の中。
この寒い、しかも1月という真冬に、手袋と言うものは大体、人間の手にしっかりはまっているものであって、間違っても鞄の中にひっそりと住んでいるものではないはずだ。
「み、見ちゃダメ!!」
鞄の中身に視線を落として思案したまま俺の手から鞄を取り返した彼女は、まるで下着でも見られたかのように顔を真っ赤にして鞄を後ろ手に回す。
「・・・・・・み、みた?」
顔を真っ赤にし、上目で尋ねるその姿を見て、いくら鈍い俺の中にもひとつの方程式が出来上がってくる。
(なんだ。そーゆーことか)
出来上がった方程式の解(こたえ)はとても簡単で、どうすれば良いのかという方法まで分かってしまった俺の顔にも彼女の朱が伝染する。
「別に何も。」
一応、そう答えていて俺は列に戻る。勿論、それは自分の右手の手袋をコートの左ポケットに入れ、冷えた彼女の右手を右ポケットに押し込んでからの話。
彼女はそれにびっくりしていたが、その後に春の花のようなとびきりの笑顔をみせるのだった。
(畜生。。。)
可愛いじゃないか。
『寒いのは苦手だ』
それは今も変わらないのだが、こんなことがあるのなら。。。
寒いのも案外悪くないのかもしれない。
そんなちっぽけな出来事で満足してしまう、1年の始まり。
(今年の賽銭は奮発するか)
そう考えてズボンのポケットから100円を取り出す。
今は神様にでも感謝しよう。
彼女と出会い、一緒にいられるこの奇跡を。
そして、カランカランカランと100円が箱に投げ込まれることで、彼女と過ごす幸せな日々が新たに始まったのだ。