竜門くんと数学のお時間
そんなことないと思う。
思うけれど。
「だって花が竜門くんのこと好きなのって多分みーんな知ってるもんねー」
なんて芹ちゃんが言うので、どうやらそんなことあるらしい。
「なんで、みんな知ってるの?」
恥ずかしくてだんだん小さな声になりながら、そう言うと芹ちゃんはまたしても面白そうに笑った。
「んー、花がすごい竜門くんのこと見てるからじゃないかなー」
「え? 嘘だよ、私そんなに竜門くんのこと見てないよ」
「は、まじで言ってる?」
芹ちゃんが眉根を寄せて、私の顔を覗き込む。
「もちろん、まじで言ってる」
「まじか、アレ無自覚なのかぁ……」
「何々、無自覚って何の……芹ちゃん?」
何のこと? と問おうとしたのだが、芹ちゃんが小刻みに震えだしたので私は首を傾げた。
何、今の震えるところあった?
寒気感じた、とか?
も、もしかして、震えるくらい私気持ち悪いこととか言った?
わわわ、とパニックに陥っていれば、小さく声が聞こえて、なんだ笑っているのかと理解した。
「くく、花のそういうとこ、みんなに好かれる理由だよね。あーおもしろ」
「……褒めてるのか、けなしてるのかわかんないよ」
そうだね、と私に頷いてからも、散々笑った芹ちゃん。
そして落ち着いた彼女が通常モードに戻ってからの第一声は、私の額の真ん中を人差し指で指したのと同時に出てきた。
「とにかくあんたは犬を卒業しなきゃ、竜門くんとの未来はないっ!」