竜門くんと数学のお時間
だけど。
「おはよう、ワンちゃん」
にっこりと素敵な笑顔を浮かべた竜門くんがいて、私の睨みはあっさり跳ね返された。
こんな笑顔を見せられちゃ世の女の子はコロッと落ちちゃうのかもしれないが、そうはいかないぞ。
気を取り直して今一度睨むと、私だけに聞こえるように舌打ちしてきた。
怖っ。
顔をしかめながらも、にらめっこ第3戦目に持ち込もうとすれば、先生が私の名前を呼んだ。
「吉野さん」
「はい?」
にらめっこ第3回戦はひとまず無しにして、先生の方へ顔を向けると、先生から微笑ましげな顔をされた。
「竜門くんが気になるのはわかったから、続きは休み時間にアタックしてちょうだい?」
「なっ!?」
なんでそんな解釈するんですっ!?
またドッと笑いに包まれる教室。
「ちちちち、違いますっ!!」
全力で拒否はしているが、誰の耳にも私の声が入っていない気がする。
恐る恐る振り返ると、そこには。
「……………え」
お得意の意地悪な笑みではなく、子供のようなとびっきり無邪気な顔。
クラスメイトと同じように楽しげに笑う彼がいた。