竜門くんと数学のお時間
少しだけ見てすぐに顔を前に戻すはずだったのだが、その笑顔を見て予定が狂った。
気付けば、じーっと彼の笑顔をガン見してしまっていたのだ。
「ほら吉野さーん、前向いてー」
「あっ、はい!」
先生に声をかけられるまでその笑顔に見惚れてた私は、恥ずかしくなって急いで黒板の方を向いた。
「うあー……」
顔を両手で覆った私は多分、りんごのように赤い顔をしているだろう。
だって、気付いてしまったから。
それは顔から火が出そうな事ではなくて……。
───カサッ。
後ろから飛んできた小さな折りまれた紙が机の端に転がる。
広げてみると、ノートの切れ端に斜め右に上がった字が並んでいた。
〝 ばーか 〟
う、わ……っ。
だんだん収まりはじめていた赤が、復活して瞬く間に顔を広がる。
どうしよう。
もう両手では隠せないくらい自分が赤いのがわかる。
けなされているはずなのに、私と彼だけの秘密が出来たようで気持ちが浮つく。
自分がちょっと気持ち悪いくらい、ふわふわする。
恋のはじまりに、一目惚れをしてしまったことに、気付いてしまったのだ。