竜門くんと数学のお時間




少しだけ見てすぐに顔を前に戻すはずだったのだが、その笑顔を見て予定が狂った。


気付けば、じーっと彼の笑顔をガン見してしまっていたのだ。



「ほら吉野さーん、前向いてー」


「あっ、はい!」



先生に声をかけられるまでその笑顔に見惚れてた私は、恥ずかしくなって急いで黒板の方を向いた。



「うあー……」



顔を両手で覆った私は多分、りんごのように赤い顔をしているだろう。


だって、気付いてしまったから。


それは顔から火が出そうな事ではなくて……。



───カサッ。


後ろから飛んできた小さな折りまれた紙が机の端に転がる。


広げてみると、ノートの切れ端に斜め右に上がった字が並んでいた。



〝 ばーか 〟



う、わ……っ。


だんだん収まりはじめていた赤が、復活して瞬く間に顔を広がる。


どうしよう。


もう両手では隠せないくらい自分が赤いのがわかる。


けなされているはずなのに、私と彼だけの秘密が出来たようで気持ちが浮つく。


自分がちょっと気持ち悪いくらい、ふわふわする。



恋のはじまりに、一目惚れをしてしまったことに、気付いてしまったのだ。




< 8 / 35 >

この作品をシェア

pagetop