アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「ここだよ。」

拓海は突然とある店の前で立ち止まった。

ショウガとニンニクの香りが店の引き戸の斜め上の換気扇から漂ってくる。

拓海は暖簾をくぐって引き戸を開けた。

暖簾の文字がよく見えなかったけれど・・・

「いらっしゃい!」

店に入ると、威勢のいいおばさんの声が響く。

こじんまりとした店はカウンターと、座敷にわかれていて、結構満席だった。

皆鍋のようなものを囲んで、ビールを飲んでいる。

ここもおやじ系?!

でも皆がつついてる鍋からはとてもいい匂いがした。

カウンターの中で下ごしらえをしている気のよさそうな丸い顔のおばさんが、拓海に声をかける。

「おや、拓海ちゃん、久しぶりね。相変わらず男前だこと!」

そう言ってケラケラ笑った。

「しかも今日は女の子と二人なんて!まぁ珍しい。二人だったら、奥のカウンターがいいんじゃない?しっぽり二人でゆっくり楽しんで。」

おばちゃんは美鈴の方を見てウインクをした。

店員さんに案内されるがまま、カウンターの奥に通された。

少し高いイスに座る。

なかなか座れず滑っている美鈴を見て、拓海は笑った。

美鈴も笑った。

二人並んで座ると、テキパキと目の前に鍋の用意がされていく。

「このお店って自動的に食べらるものが決まって出てくるシステムなの?」

「ん、まぁ、そういう訳じゃないけど、今日は予約入れてたからさ。」

「おいしそうなお鍋だけど何鍋?」

「もつ鍋。」

「・・・も、もつ?!」

思わず笑顔が引きつった。

牛すじと同系列のもつ。

もつ~?!

だめだって、それ系は脂っこくて無理なんだって-!

叫びそうになるのをぐっと堪えた。

「私、もつ、食べたことないから、食べれるかな・・・。」

小さい声で拓海に言う。

「大丈夫大丈夫、ここのもつ鍋やばいくらいにうまいから。」

うそー!

両手で自分の頬をはさんだ。

その姿を見て、拓海は冷静に言った。

「今日はそのポーズ多いよね。」

「だ、だって。」

「ひょっとしてもつ苦手?」

ようやく、狼狽した美鈴の様子から察した拓海は美鈴に体を向けた。

< 104 / 143 >

この作品をシェア

pagetop