アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「うん、早いほうが良さそうな雰囲気だった。ごめん。」

「あのね、じゃ最後に聞いていい?」

「何?」

「あなたって、車に乗るの?」

「え?」

「運転して、誰かを乗せたりしたことある?」

胸がドキドキしていた。

どうして最後の質問がそれなんだろうって、拓海も不思議そうな顔をしている。

「先輩からもらった軽自動車もってる。運転はできるよ。」

「私の知ってる人、助手席に乗せたことある?」

「あるよ。薫は乗せた。」

今となってはどうでもいいことなはずなのに、頭をバズーカ-で打たれたような衝撃が走った。

拓海はとても冷静に、敢えて冷静に答えているようだった。

そして、歩みを止めて言った。

「今度、君を乗せるよ。」

今度・・・。

「今度っていつ?私、今度っていうの嫌いなんだ。」

「そうだね。来週の火曜はどう?午後から何も予定入ってないんだ。」

「ドライブしてくれるの?ドライブデート?」

拓海は軽く笑った。

「そう、ドライブデートしよう。」

「嬉しい!」

美鈴は自分がこんなにも簡単に一喜一憂する人間だったのかと初めて知った。

「約束だよ。」

拓海の目をしっかりと見て言った。

ちょっとストーカーっぽくて気持ち悪いかなと思いながら。

「いいよ。行こう。」

拓海はそんなことは気にも留めない様子で2回頷いた。

「ありがとう。」

奏汰の車に乗った時感じた、あの緊密した空間を思い出した。

不思議なふわふわとした感覚。

あの時は異常なほどに奏汰を男性として意識した。

それが拓海になっちゃったらどうなるんだろう?

駅前で拓海とバイバイした。

拓海は薫との待ち合わせ場所へ歩みを速めて行ってしまった。

本当は行ってほしくなかった。





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