アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
ただ呆然と座ってる自分。

今、何が起こったのかわからなかった。

美鈴の手は小刻みに震えていた。

封筒を取り出した自分のバックは口が開いたまま。

財布もむき出しになっていた。

今はそのバックの口を閉じる力すら出てこなかった。

拓海の顔が見れなかった。最後まで。

ただ、あの冷たい口調だけが耳にずっと響いている。

自分は、入ってはいけない拓海の領域に入ってしまったんだ。

拓海のためを思って、奮い起こした勇気は、拓海にとってはただの裏切りでしかなかった。

震える手でゆっくりとコップをにぎる。

口まで持って来る力がないから、コップに口を近づけた。

喉がカラカラに渇いていた。

手のつけられていない二つのランチセットが、静かに冷えてゆく。

窓から見える青空と、窓から降り注ぐ明るい日差しに妙な違和感を感じていた。

手の震えが少し治まってきたので、バックからスマホを取り出した。

薫にラインを打つ。

『私も振られちゃった』

打った途端、ふーっと力が抜けて行く。

これでよかったのかもしれない。

すぐに薫から返事があった。

『今どこ?』

『M水族館の近くのファミレス』

『迎えに行くから待ってて』

そんな薫の返信を見て、安堵する。

一人じゃない。

薫がいてくれてよかったと心から思った。



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