アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
拓海もちらっと時計をみやる。

「そうだね。今日は店の切り盛りがメインだ。」

相変わらず切りかえの早い、クール能面人間。

逆にその切りかえの速さに、今はホッとしていた。

うつむいたままの薫の肩に美鈴はそっと手を置く。

「大丈夫?薫。今日は仕事できる?」

薫は顔を上げて、少し微笑みながら頷いた。

いい香り。

泣きそうな目が潤んだ姿もとても美しかった。

拓海と二人、美しいもの同士。

お似合いだったんだろうね。

私は薫に笑顔で頷いた。

「さ、じゃ、とりあえず今日の段取りから説明させてもらいまぁす。」

美鈴は、敢えて元気よく声を出して、朝から昼間での仕事の段取りと役割分担を説明した。

午後からは、拓海と二人だから、とりあえずなんとかなるだろう。

薫はあくまでボランティアとしてきてくれるから、店内の本の整理や、玄関前の掃除をお願いした。

「会計全般は私がやるから。あとレジも。」

「おつり間違えないでね。」

拓海は私を見下ろして、口元を緩めた。

「わかってます。あの時は特別よ。」

「どうして特別なの?」

素で聞いてくる拓海のきれいな目に動揺する。

「それは・・・。」

自分で墓穴を掘ってしまった。

その目、その目がいけないのよ。

「とりあえず、今日は仕事仕事!ほら、薫はもうスタンバイして仕事してくれてるよ!」

拓海を追い払うように、美鈴はレジの前に座った。

< 38 / 143 >

この作品をシェア

pagetop