アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
午前中は、急に雨が降り出したせいか客足もそれほどではなかった。

ある意味助かった。

お昼前、薫が私の前にとことことやってきた。

「今日はごめん。またゆっくり時間とって話するね。これから午後の講義だからお先に失礼するわ。」

「ありがとう。助かったよ。さっきの話は別に気にしてないから。」

薫は笑顔で頷くと、自分のバッグを提げて私に手を振った。

そして、本棚の整理をしている拓海に、

「お先です。」

と声をかけると、店から出て行った。

店には拓海と二人きりになった。

雨音が薄暗い店内に静かに響いている。

「よく降るね。」

本棚の向こうから拓海の声がした。

「そうだね。」

そして、また一段と雨音が強く響き始めた。

梅雨でもないこんな時期に結構降るなと思う。

薫と拓海。

ふと今朝の話が美鈴の頭に雑念となって現れた。

そしてすぐにかき消す。

自分にはどうでもいいこと。

そんなこと気にしたからって何もいいことはない。

だけど。

やっぱり気にならずにはいられなかった。

だって、私と薫は親友だもの。

「薫と付き合ってただなんて、全然知らなかったよ。びっくりだったわ。」

努めて明るく、何でもない話題のように本棚の向こうに声をかけた。

姿が見えないから、言えたのかもしれない。
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