アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「だって、これまで薫が付き合ってきた人は全部教えてくれてたのに、あなただけだもの。知らなかったの。」

本を整理するカタカタという音と、雨音が重なって不思議なハーモニーを醸し出している。

何か言ってよ。

何の反応もしない拓海に美鈴は少しイライラした。

その時、とても小さなつぶやくような拓海の声が聞こえた。

「女って疲れる。」

その女が、女性全般のことを指してるのか、薫のことなのか、もしくは、美鈴のことを言ってるのかわからない。

だけど、くだらない話を振ってしまった自分が急に恥ずかしくなった。

拓海の言動は、時にすごく人を傷つける。

薫もまた、その一人であるような気がした。

どうして、こんなにも拓海という人間が女性に対して冷淡で寄せ付けない空気を漂わせてるのか。

きっと何か理由があるはずだと思う。

だけど、その理由を知ってる人間は、きっと相当ラッキーな選ばれし人だろう。

美鈴は拓海を詮索することをあきらめようと決めた。

彼は、彼のままでいいのよ。

私が気にする必要もないし、それを求めることもない。

とりあえず、この1週間は店長のために働こう。拓海と。

拓海がようやく本棚の整理を終え、手を払いながらゆっくりと美鈴の方に歩いてきた。

美鈴は書類に目を通しながら、一つの段ボールを指刺して言った。

「悪いけど、これ、新刊が入ってるの。そこのスペースに並べてくれる?」

「了解。」

拓海はその段ボールを軽々と持ち上げた。

見た目のスリムな体からは想像もできないほどに。





< 40 / 143 >

この作品をシェア

pagetop