アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
翌日も、拓海と二人で書店を切り盛りする。

拓海は想像以上によく働いてくれた。

一度聞いたことは二度と聞かなかった。

無駄口も叩かなかったし、相変わらず私に触れることはなかった。

拓海でなくても、そんな簡単に触れるのはおかしいか。

レジのやり方もすぐ覚えた。

美鈴は気がつけば、ぼーっと拓海が働いてるのをイスに座ってみている時間が増えてきた。

っていうことは、自分が何もしていないってこと。

「ちょっとさぼりすぎじゃない?」

書籍の整理をしていた拓海がふいに美鈴の方に顔を向けて言った。

急に目があってどぎまぎする。

別にね、拓海に見とれていたわけではないんだけど。

「さぼりすぎっていうか、あなたがあまりによく働いてくれるから私の仕事がなくなってるの。」

「そうなの?」

「うん。」

「じゃ、俺もう少しさぼらせて。」

そう言うと、レジに座っている美鈴の横に座った。

「君の仕事残してあるからやってきて。俺はちょっと休憩する。」

「書籍の整理は重たいから、男の人がやるもんなのよ。」

しぶしぶ重たい腰を上げて、拓海が作業していた場所へゆっくり向かった。

くそ。

そういうとこが、結構冷たいのよね。

女嫌いなのはわかるけど、こき使うのは止めて欲しいわ。

美鈴が作業を始めたとき、店の扉が開いた。

「よっ。」

声の方を向くと、巡査服を身にまとった奏汰が敬礼をして立っていた。
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