アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
恋わずらい?!

「んなわけないでしょ!」

美鈴は奥に引っ込んだ店長に向かって叫んだ。

んなわけない。

今まで生きてきた21年間、一度だって一目ぼれなんかしたことない。

そんな見た目だけで人に恋するほど、自分は浅はかな人間ではないと思ってる。

ただ、ちょっと気になっただけだと美鈴は自分に言い聞かせた。

拓海みたいな、何考えてるんだかわからない冷たい表情をした男性を未だかつて見たことがなかった。

想像と違う美しすぎる出で立ちに、戸惑っただけ。

そうそう、恋わずらいじゃなくて戸惑い。

だからこんなにも気持ちが動揺してるんだわ。

美鈴はレジのイスから立ち上がると、店の外に出て胸いっぱい空気を吸い込んだ。

店内のとは違う、色んなものを含んだ香り。

頭の中をリフレッシュリフレッシュ。

キキーィッ!

耳につんざくような自転車のブレーキ音が響いた。

今度は何?!

慌てて音の方を見ると、自転車にまたがってこちらをじっと見ている人がいた。


拓海・・・その人だった。


私の顔が一気に熱くなる。

どうしてこんなに熱くなるのかわからない。

自分が彼に拒絶されてるって感じたから?

戸惑ってるから?

拓海は相変わらず無表情で私をじっと見下ろしていた。

そして、自転車を停めると、私の方にゆっくりと歩み寄ってきた。

美鈴は、逃げたしたい衝動にかられていた。

なんだか、また自分が傷つくんじゃないかって怖い気持ち。

胸の鼓動が速くなる。


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