アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
胸の奥のつっかえ棒が取れないまま、一日が過ぎて行く。

拓海は年下だけど、美鈴の今抱えてる不甲斐なさをもっと指摘してくれる一番適切な相手だと思った。

でも、そんなこと露骨に言うのには年上としてのプライドが頭をもたげる。

そして、拓海にそんな弱みを見せたくなかった。

閉店の時間が近づき、美鈴は今日の売り上げを集計していた。

拓海は、店のシャッターを降ろす。

そして、翌朝の準備のため、店の奥に入って行った。

狭い店内に湖光と蛍光灯が本達を明るく照らし出している。

外は暗いのに、店内だけは人工的に明るい。

普段と変わらないのに、美鈴は今日は妙な違和感を覚えていた。

「君はもう終わる?」

店の奥から拓海の声が響く。

「うん。あと少しで終わる。」

拓海はいつものように、身支度を調えて出てきた。

「お疲れさま。あとは大丈夫だから先帰ってていいよ。」

いつものように美鈴は声をかけた。

でも、拓海はレジの前に立ったまま、じっと黙って美鈴を見ていた。

「どうしたの?」

電卓を叩きながら、早口で尋ねる。

「店終わった後、暇?」

「暇といえば暇。」

「じゃ、暇なんだ。」

「何か悪い?」

電卓から顔を上げて、拓海を見上げた。

「あのさ、これからちょっと付き合わない?」

拓海のまっすぐな瞳にドキンとする。

ひょっとして、誘ってる??

鼓動が少しずつ速くなっていく。

「な、何?」

少し声がうわずった。






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