アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
駅に降り立つ。

無言のまま、拓海の後に美鈴は続いた。

思っていたよりもゆっくりと歩く拓海に好感を持ちながら。

閑静な住宅街に、ポツンとおしゃれな煉瓦作りのお店が見えてきた。

「ここだよ。」

白い扉の向こうは、とても明るく、おしゃれそうな洋服が整然と並べられていた。

「こんばんわ。」

拓海は、店の奥にいる、少し無精ひげを生やした背の高いおしゃれな男性に声をかけた。

彼が拓海の知り合い?

それにしては、拓海より随分年上に見えた。

「やあ、拓海。久しぶりだね。」

その背の高い男性は、嬉しそうな顔で足早に拓海に歩み寄った。

「すっかりご無沙汰しちゃってすみません。」

拓海は自分の頬をかきながら、ペコリと頭を下げた。

「勉強ばっかりして暇がなかったんだろ。」

男性は優しい目で笑った。そして、すぐに美鈴に視線を向けた。

「おや、横にいる女の子は?」

「あ、バイト先の子です。」

シンプルな紹介すぎやしない?

美鈴は少し不満におもいながらも、その男性に頭を下げた。

「珍しいよね。女の子と一緒にお店に来るなんて。」

男性は冷やかしたような表情で、拓海をつついた。

美鈴はまんざらでもない気持ちになった。

「こちらは、この店の店長。僕が小さい頃からお世話になってる宮浦シゲユキさんだよ。」

「よろしく。」

宮浦さんは、大きな手の平を美鈴の前に突き出した。

何?

アメリカンスタイルなこの挨拶は?!

いきなり知らない男性と握手することに、少し抵抗をもちながらも美鈴はなんとか笑顔でその手に触れた。

美鈴の手を握った瞬間、宮浦さんは「お?」という顔をして、美鈴を見た。

「ひょっとして剣道やってる?」

「え?」

「この手の平の感じ、マメの出来具合、剣道やってる人の手だと思って。」

「はい、やってます。」

いきなりずばり言い当てられて、美鈴はまごついた。

だって、そんなこと今まで言われたことなかったから。

ていうか、知らない男性と握手するなんて機会、あんまりないもんな。




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