アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「お前、変わらないな。」

そんな二人のやりとりを見ながら、宮浦さんはくすくすと笑って言った。

「変わらないって?」

拓海は、不満そうな顔で宮浦さんを見た。

「小学生の頃だったかなぁ、好きな女の子、いっつも泣かしてただろ。」

拓海の石膏のような白い頬が、みるみる紅潮する。

「んなことないですよ。」

そう言い捨てると、奥の壁に並んでいるシャツのブースへ逃げるように行ってしまった。

拓海の照れた後姿を見ながら、美鈴はやっぱり彼が好きだと思った。

嫌いだけど、好き。

複雑で訳のわからないことを言う拓海だけど、にくめない。

知りたい。

彼のことをもっともっと知りたい。

シャツを選んでいる拓海をずっと見つめていたいと思った。

「美鈴ちゃんも、相当拓海にお熱みたいだね。」

背後から宮浦さんの穏やかな低音が響く。

思わず、こくんと頷いていた。

「あいつあんなに男前なのに服のセンスゼロなんだよ。ほら、美鈴ちゃん見立ててやってよ。」

そう言うと、私の背中を軽く前に押した。

押し出されたまま、歩みを拓海の方に進めた。

私の好きな拓海の横顔が近づいてくる。

美鈴の気配に気付いた拓海が振り返った。

「今日はお見立てするために着いてきたんだから。」

美鈴はそう言って笑った。

「ああ、そうだったね。よろしく。」

拓海は再びシャツに視線を落として小さな声で言った。



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