アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
色んな種類のシャツが積まれてある棚に移動する。

「あなたは、柄物が好き?それとも無地?」

「今日は無地を探してる。」

「ふぅん。」

「これはどうかな。」

拓海は手前に置いてあった、真っ白なシャツを手にとった。

「真っ白、ね。」

美鈴は、その真っ白なシャツをまじまじと眺めた。

一見純白なイメージの拓海だけれど、顔に重ねるとなんだかしっくりこない。

シャツを広げて拓海の顔の下に合わせてみるけれど、やはり違うような気がした。

しばらく考えて、美鈴はその隣にあったシャツを手にとった。

「私的には、あなたは真っ白よりも、アイボリーの方が似合うと思う。」

手にとったアイボリーのシャツを広げた。

「純白だとあなたが消えちゃうような気がするの。アイボリーは、白に限りなく近い色なんだけど、白よりも不透明で主張しすぎなくて自然にあなたの空気になじむ色って感じ。」

そう言いながら、拓海の顔に合わせた。

少しだけ、美鈴の手が拓海の肩に触れた。

触れた一瞬、拓海の肩が反応したけれど、美鈴は敢えて気付かないふりをした。

拓海の肩の堅い部分が、美鈴の柔らかい指に当たっている。

美鈴はいつその肩が自分の指から離れてしまうのか、不安と期待で鼓動が激しくなっていった。

その時、拓海はそっとそのシャツを手にとった。

「君の視点、おもしろいね。確かに僕には純白は不釣り合いな気がする。」

そして、アイボリーのシャツを広げたまま、鏡に自分を映した。

「さすが、美鈴ちゃん。拓海のことよく見てるね。」

後から宮浦さんが笑顔でゆっくりと近づいてきた。

「僕も白よりアイボリーの方が拓海には似合うと思うよ。」

「そうですか。」

「似合ってるよ。とっても。」

鏡に映る、拓海とアイボリーのシャツを眺めながら、美鈴の指はまだジンジンと脈を打っていた。

まるでどこかにぶつけたみたいに。


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