アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「じゃ、これ下さい。」

拓海は宮浦さんにアイボリーのシャツを手渡した。

「ありがとうございます。」

宮浦さんは丁寧に頭を下げた。

そして、美鈴をちらっと見てウィンクした。

美鈴は、その意味深なウィンクに焦る。

さっき、宮浦さんに言われて、思わずコクンと頷いてしまったこと。

まだ拓海には知られたくなかった。

せっかく、少しずつ距離が縮まっていく中、私がもし「好き」だなんて告白しちゃったら、拓海は絶対離れていくような気がした。

だって、彼は恋ができないんだもの・・・。

だけど、さっき私の指が拓海の肩に触れていた時、拓海は体をひかなかった。

ほんの少しの時間だったけど、触れたままでいさせてくれたことで拓海に少しは受け入れてもらえたような気がしていた。

アイボリーのシャツを宮浦さんが丁寧に包んでいる様子を、拓海と二人並んで見ながら、胸の奥が熱くなっていく。

美鈴にとって久しぶりの感情。

「恋」かもしれない気持ちが、自分の中で確信に変わっていた。

成就はきっとできない、素直に喜べない「恋」ではあるけれど。
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