アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
翌日、ようやく店長が復帰した。

「おはようございます!」

既に店で本を並べていた店長の後姿に大きな声で挨拶をする。

随分久しぶりの感覚だった。

「やあ、美鈴ちゃんおはよう。しばらく世話になったね。本当にありがとう。」

美鈴の方に振り返った店長の穏やかな笑顔は健在だったけど、少し痩せたような気がした。

「店長、もう体は大丈夫なんですか?無理しないで下さいよぉ。」

敢えて、明るく言ってみた。

「いやいや、ほんとこれからどうなるかだ。だけど、もうしばらくはがんばるよ。新しく拓海くんも入ってくれたことだしね。」

そう言いながら、店長は店の奥に目をやった。

その先に拓海がエプロンを腰につけながら歩いてきた。

ドキン。

いつもにはないくらい美鈴の胸が震える。

宮浦さんから聞いた話が、頭の中に一気に蘇った。

私にできること。

本当にあるのかしら・・・。

「おはようございます。」

立ちつくす美鈴の横をすり抜けざま、拓海は小さな声で言った。

「あ、おはよう。今日は随分早いのね。」

我に返る。

「君がいつもより遅いんじゃない?」

拓海はそう言うと、相変わらず無表情なままハタキをかけ始めた。

「そうでもないわよ。」

そう言いながらも、昨晩は宮浦さんの言葉でなかなか寝付けず、少し寝坊していた。
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