アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「ほんと、今日は剣道行っちゃっていいですか?」

美鈴は上目づかいに店長に尋ねた。

「もちろん。早めに切り上げて行っておいで。」

店長は美鈴の肩を優しく叩いた。

「ありがとうございます。復帰したばっかりなのに、ごめんなさい。」

頭を下げた美鈴の背後から、

「僕が今日は最後まで残るから大丈夫だよ。」

と拓海の声が響く。

見上げると、無表情だけど、どことなく優しい目の拓海が立っていた。

「ありがと。今日はよろしくね。」

顔が熱くなって、すぐに視線を逸らして言った。

明らかに、挙動不審な自分にイライラする。

意識しすぎだっての。

拓海は全然普通だってのに。

店長のはからいでお昼過ぎに帰らせてもらった美鈴は、一旦家に戻り一眠りしてから剣道に向かった。

仮眠って、なんてすばらしいのかしら。

随分頭がすっきりした。

いつもより早めに道場に入る。

誰もいないと思ったら、奥で奏汰が軽く素振りをしていた。

「お疲れさまです。」

声をかけると、奏汰はすぐに振り返って笑顔で手を挙げた。

「よっ。先週はお前がいなくて静かだったぞ。」

「何、それー。寂しかったくせに。」

美鈴は笑いながら、奏汰の横で準備体操を始めた。

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