アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
いつも通り皆と笑顔で挨拶をして、いつも通りの稽古が始まる。

ただ、いつも通りじゃないのは、美鈴が稽古の後、奏汰と待ち合わせしてること。

どうして、急にそんなお誘いがかかったのか美鈴にも全く見当つかなかった。

お兄ちゃんみたいな存在の奏汰と二人で待ち合わせるなんてこと、意外と初めてだなぁと思いながら竹刀をふる。

奏汰が美鈴の正面に立った。

合い稽古が始まる。

いつものように背の高い奏汰とつばづり合いをする。

大きくて力の強い奏汰に、いくら攻め寄っても何の手応えも感じられなかった。

「お前、ちょっと威勢足りないぞ。もっと来いよ。」

奏汰の面の奥に見える目は優しかった。

「はい!」

美鈴は自分に気合いを入れて、奏汰を突き放し「面!」と言いながら向かった。

「そう!やっといつもの美鈴に戻った。」

奏汰はそう言いながら、軽く美鈴を交わして美鈴の小手を打った。

美鈴は奏汰に一礼して、次の相手に竹刀を向けた。

体中が熱かった。

堪えていた、自分の中の何かが突き動かされるような感覚がわき上がる。

自分と同じくらいの背の相手に「面」を入れる。

久しぶりに気持ちいいくらいに相手の面に入ったのがわかった。

「美鈴ちゃん、今日は気合い十分じゃん。」

相手は、婦警の水中さんだった。

「調子戻ってきました!」

そう叫んで、また次の相手に向かった。
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